養育費が払われないときはどうする?
― 履行勧告・差押え・法定養育費の使い分け
この記事は「払われないときにどう動くか」を扱います。金額そのもの(相場・算定表の見方)については、養育費の相場はいくら?算定表の見方と受け取り続けるための工夫をあわせてご覧ください。
養育費が未払いになったら、まず何をすればいい?
いきなり手続を選ぶ前に、「取り決めの形」と「未払いの記録」の2つを確認します。この2つで、使える手続が決まります。
養育費の不払いに使える手続は、どんな形で取り決めたかによって変わります。家庭裁判所の調停や審判で決めたのか、父母だけで文書を作ったのか、口約束だけなのか。ここを取り違えると、申し出ても対象外になってしまいます。次の順で進めると迷いにくくなります。
- 取り決めの形を確認する:調停調書・審判書・和解調書/公正証書/父母だけで作った文書/口約束のみ、のどれにあたるかを確かめます。
- 未払いの記録をそろえる:いつから・いくら支払われていないかがわかる資料(通帳の写しなど)を集めます。履行勧告の申出でも、義務を守っていないことがわかる資料があればコピーを添えます。
- 支払期限の到来を待つ:たとえば「毎月末日払い」と決めた場合、その月の分は末日が過ぎてから(翌月1日以降でないと)履行勧告の申出ができません。
- 相談窓口に相談する:養育費・親子交流相談支援センターや法テラス、お住まいの自治体などに、状況を整理して相談します。
- 家庭裁判所の取り決めがあるなら、履行勧告を申し出る:費用がかからず、電話でも申し出られます。
- それでも支払われないなら、強制執行(差押え)などに進む:給料や預金を差し押さえる手続です。相手の勤務先や口座がわからない場合の手続もあります。
- 取り決め自体がないなら、法定養育費の請求と、取り決めそのものを進める:法定養育費は暫定的な仕組みなので、並行して適正な額の取り決めを目指します。
なお、取り決めをしていない母子世帯にその理由をたずねた調査では、最も多かった答えは「相手と関わりたくない」で34.5%でした。養育費の取り決めをしている母子世帯は46.7%です(出典:こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査の結果を公表します」(PDF))。相手と直接やり取りしたくないという気持ちは、めずらしいものではありません。だからこそ、公的な窓口や手続を間に入れる選択肢を知っておくことに意味があります。
履行勧告・履行命令・強制執行(差押え)は何が違う?
3つは「強さ」と「使える条件」が違います。履行勧告は無料で促すだけ、履行命令は従わないと過料の制裁があり、強制執行は実際に給料や預金を差し押さえます。
順番に強くなっていく手続ですが、必ず上から使わなければならないわけではありません。それぞれの条件と費用を並べると次のようになります。
| 項目 | 履行勧告 | 履行命令 | 強制執行(差押え) |
|---|---|---|---|
| 何をする手続か | 家庭裁判所が、取り決めを守るよう相手に促す | 家庭裁判所が、期限を定めて履行するよう命じる審判をする | 相手の給料・預金などを実際に差し押さえて回収する |
| 使える取り決めの形 | 家庭裁判所の調停・和解条項、審判・判決の主文に書かれているものに限る | 家庭裁判所の審判で定めた義務(調停・調停に代わる審判にも準用) | 債務名義(公正証書・調停調書・審判書など)。2026年4月からは、父母間で作成した文書でも先取特権により申立て可 |
| どこへ | 取り決めの手続をした家庭裁判所 | その審判・調停をした家庭裁判所 | 原則として、相手の住所地を管轄する地方裁判所 |
| 費用 | かからない | 申立ての費用は、申立先の家庭裁判所にご確認ください | 手数料原則4,000円+郵便料(郵便料は裁判所ごとに異なる) |
| 申出・申立ての方法 | 書面・口頭・電話でも可 | 権利者の申立て(相手の言い分を聴いたうえで判断される) | 申立て |
| 従わなかったら | 履行を強制することはできない | 正当な理由なく従わないときは10万円以下の過料 | 差押えにより、勤務先や銀行から直接支払を受けられる |
このほか、養育費には間接強制という方法もあります。期間内に支払わなければ、養育費とは別に「間接強制金」を課すと警告して、自発的な支払を促すものです。お金の支払を目的とする権利には通常使えませんが、養育費や婚姻費用の分担金など扶養に関する権利は例外として使えます。申立先は調停・審判・判決などをした家庭裁判所で、費用は収入印紙2,000円と連絡用の郵便切手です(出典:裁判所「間接強制」)。
履行勧告はどうやって申し出る?費用はかかる?
履行勧告は、取り決めの手続をした家庭裁判所に申し出ます。費用はかからず、書面でも口頭でも、電話でも申し出られます。
履行勧告は、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取り決めを守らない相手に対して、家庭裁判所が「守ってください」と促す制度です。手軽に始められる反面、勧告に応じない相手に支払を強制することはできません。また、勧告できる内容は調停・和解条項または審判・判決の主文に書かれているものに限られるため、公正証書だけで取り決めた場合は対象外です(出典:裁判所「履行勧告手続」)。
申し出るときは、必要事項を書いた申出書(相手の住所を記載します)と、調停調書や審判書などのコピーを準備します。義務を守っていないことがわかる資料(通帳など)があれば、そのコピーも添えます(出典:大阪家庭裁判所「履行勧告の申出について」(PDF))。
いつ・いくら支払われたか(未払いか)を、連絡先を交換せずにアプリの中だけで記録できます。
給料はどこまで差し押さえられる?将来の分も取れる?
養育費の差押えでは、相手の手取り給与の2分の1までを差し押さえられます。また、まだ支払日が来ていない将来の分についても、あわせて差押えを申し立てられます。
強制執行(差押え)は、相手の給料や銀行預金、家賃収入といった継続的に支払われるお金を差し押さえ、勤務先や銀行から直接支払を受ける手続です。養育費のような扶養に関する債権は、ふつうの借金の取立てより手厚く扱われています。
| 項目 | 養育費などの場合 | ふつうの債権の場合 |
|---|---|---|
| 給料を差し押さえられる上限 | 税金等を除いた手取額の2分の1(手取額が66万円を超えるときは、33万円を除いた金額) | 手取額の4分の1(手取額が44万円を超えるときは、33万円を除いた金額) |
| 将来分の差押え | まだ支払日が来ていない分もあわせて申立て可(預金などは未払分のみ) | ― |
| 申立先 | 原則として、相手(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所 | |
| 費用 | 手数料 原則4,000円+郵便料(郵便料は裁判所ごとに異なります) | |
差押えには「債務名義」が必要です。債務名義とは、強制執行によって実現される請求権の存在・範囲・債権者・債務者を表示した公の文書のことで、公正証書や調停調書、審判書などがこれにあたります(出典:裁判所「養育費に基づく差押え」)。
相手の勤務先や口座がわからないときは?
差し押さえる財産がわからない場合のために、「養育費等のワンストップ執行手続」があります。地方裁判所への1回の申立てで、財産の開示から差押命令までを進められます。
これまでは、相手の勤務先や口座を自分で突き止めないと差押えに進めませんでした。改正後は、地方裁判所への1回の申立てで、次の一連の手続を申請できます(出典:法務省「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」(PDF))。
- 財産開示手続:養育費の支払義務を負う相手が、自分の持っている財産を開示しなければならない
- 情報提供命令:市区町村に対して、相手の給与情報を提供するよう命じる
- 債権差押命令:判明した給与債権を差し押さえる
裁判所の説明では、財産開示手続の申立てをすると、それと同時に、相手が開示した給与債権に対する差押命令の申立てをしたものとみなされる仕組みです。この手続は、2026年4月1日以降に発生した養育費・婚姻費用分担金に限って利用できます。申立先は原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所で、手数料は財産開示事件が原則2,000円、差押命令事件が原則4,000円(差押命令事件の手数料は、差し押さえるべき債権を特定した時点での納付でかまいません)、ほかに郵便料がかかります(出典:裁判所「養育費等のワンストップ執行手続(財産開示)」)。
そもそも取り決めをしていない場合は?(法定養育費)
2026年4月1日に施行された改正民法で「法定養育費」が新設されました。離婚のときに取り決めをしていなくても、子ども1人あたり月額2万円を暫定的に請求できます。
法定養育費は、離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う親が、他方の親に対して請求できる暫定的な養育費です。改正前は、協議や家庭裁判所の手続で額を取り決めなければ養育費を請求できませんでしたが、この制度により、取り決めができるまでの間も請求できるようになりました。制度の内容は次のとおりです(出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」/同解説パンフレット(PDF))。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 金額 | 子ども1人あたり月額2万円 |
| いつから発生するか | 離婚の日から。支払義務を負う親は、毎月末に、その月の分を支払う |
| いつまで続くか | 次のいずれか早い日まで。①父母が養育費の取り決めをした日 ②家庭裁判所における養育費の審判が確定した日 ③子どもが18歳に達した日 |
| 対象になる人 | 改正法の施行後(2026年4月1日以降)に離婚した場合に請求できる。施行前(2026年3月31日まで)に離婚した場合は発生しない |
| 支払われないとき | 差押えの手続を申し立てることができる |
| 相手が支払を拒める場合 | 支払能力を欠くために支払ができないこと、または支払によって自らの生活が著しく窮迫すること(たとえば生活保護を受給している場合など)を相手が証明したときは、その全部または一部の支払を拒める |
法務省は、この制度を「あくまでも養育費の取決めをするまでの暫定的・補充的なもの」と位置づけています。子どもの成長を支えるためには、協議や家庭裁判所の手続によって、それぞれの収入などを踏まえた適正な額を取り決めることが重要です。月額2万円と異なる額(より高い額でも低い額でも)を父母だけで決められないときは、相談窓口や家庭裁判所の手続を使うことが考えられます。
どこに相談すればいい?
養育費の不払いは、無料の公的窓口に相談できます。「相手と直接話さずに進めたい」という相談も受け付けています。
手続を自分だけで選ぶ必要はありません。法務省の解説パンフレットでも、次の窓口が案内されています。
| 相談したいこと | 窓口 |
|---|---|
| 養育費のこと全般 | 養育費・親子交流相談支援センター(こども家庭庁委託事業)フリーダイヤル0120-965-419(携帯電話等からは03-3980-4108) |
| お住まいの地域で相談したい | 母子家庭等就業・自立支援センター(最寄りの窓口を検索できます) |
| 法制度や相談窓口を知りたい | 日本司法支援センター(法テラス)サポートダイヤル0570-078374 |
| 弁護士に相談したい | 日本弁護士連合会(法律相談のご案内) |
| 調停・審判の手続や費用を知りたい | 裁判所「養育費に関する手続」/最寄りの家庭裁判所 |
手続に進むかどうかにかかわらず、いつ・いくら支払われたのか(支払われていないのか)の記録は、早いうちから残しておくほど役に立ちます。履行勧告の申出でも、義務を守っていないことがわかる資料の提出が想定されています。
共同養育アプリ「はぐみぃ」でできるのは、支払い済み・未払いの記録と、その内容のCSV書き出しまでです。回収そのものはアプリではできません。電話番号やLINEを交換せずに、面会予定とあわせてふたりで記録を共有できるので、相手と直接やり取りする負担を抑えながら記録を残す方法のひとつとして使えます。
よくある質問
養育費が払われません。まず何をすればいいですか?
先に「取り決めの形」と「未払いの記録」を確認します。家庭裁判所の調停・審判で決めたのか、父母だけで作った文書なのか、口約束なのかで、使える手続が変わるためです。あわせて、いつから・いくら支払われていないかがわかる資料(通帳の写しなど)をそろえます。そのうえで、養育費・親子交流相談支援センター(フリーダイヤル0120-965-419)や法テラス、家庭裁判所などの窓口に相談すると、次の一手を選びやすくなります。
公正証書がなく、父母だけで作った文書でも差押えできますか?
2026年4月1日に施行された改正民法で、養育費の債権に「先取特権」という優先権が与えられました。これにより、公正証書や調停調書などの債務名義がなくても、養育費の取り決めの際に父母の間で作成した文書に基づいて差押えの手続を申し立てられるようになりました。先取特権が付く上限額は子ども1人あたり月額8万円です。なお、施行前に取り決めをしていた場合は、施行後に生じる養育費に限って先取特権が付きます。口約束だけで文書がない場合はこの方法を使えないため、まず取り決めを文書にすることから始めます。
履行勧告に費用はかかりますか?強制力はありますか?
履行勧告の手続に費用はかかりません。申出は書面でも口頭でもよく、電話ですることもできます。ただし、勧告に応じない場合に履行を強制することはできません。また、勧告できる内容は、家庭裁判所の調停・和解条項または審判・判決の主文に記載のあるものに限られます。公正証書だけで取り決めた場合は履行勧告の対象になりません。
相手の勤務先や口座がわからないときはどうしますか?
差し押さえるべき財産がわからない場合のために、養育費等のワンストップ執行手続があります。財産開示手続の申立てをすると、相手が開示した給与債権に対する差押命令の申立てをしたものとみなされる仕組みで、地方裁判所への1回の申立てで、財産開示・市区町村への給与情報の提供命令・債権差押命令までを申請できます。この手続は2026年4月1日以降に発生した養育費・婚姻費用分担金に限って利用できます。
取り決めをしていません。2026年4月からの法定養育費とは何ですか?
2026年4月1日に施行された改正民法で新設された、暫定的に請求できる養育費です。離婚のときに取り決めをしていなくても、離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う親が、他方の親に子ども1人あたり月額2万円を請求できます。離婚の日から発生し、取り決めをした日・養育費の審判が確定した日・子どもが18歳に達した日のいずれか早い日まで続きます。施行後に離婚した場合に請求でき、支払われないときは差押えの手続を申し立てられます。ただし、支払能力を欠くことや支払によって自らの生活が著しく窮迫することを相手が証明したときは、その全部または一部の支払を拒むことができます。
出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」(moj.go.jp)/法務省民事局「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」2026年1月改訂(PDF)/裁判所「養育費に関する手続」(courts.go.jp)/裁判所「履行勧告手続」(courts.go.jp)/裁判所「養育費に基づく差押え」(courts.go.jp)/裁判所「養育費等のワンストップ執行手続(財産開示)」(courts.go.jp)/裁判所「間接強制」(courts.go.jp)/大阪家庭裁判所「履行勧告の申出について」(PDF)/e-Gov法令検索「家事事件手続法」第290条(laws.e-gov.go.jp)/こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査の結果を公表します」(PDF)/こども家庭庁「民法等改正について」(support-hitorioya.cfa.go.jp)。制度の詳細・最新情報は各公式情報および専門の窓口でご確認ください。
養育費の支払い済み・未払いの記録と面会予定を、連絡先を交換せずにふたりで共有できます。
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